副業先でケガをしたら、労災はどうなるのか。本業の会社にバレるのではないか。そもそも副業のアルバイト先で労災は使えるのか。
先に結論をお伝えします。2020年9月1日から、複数の会社で働いている人の労災給付は、すべての就業先の賃金を合算した額をもとに計算されます。副業先で被災しても、副業先の低い賃金だけで休業補償が決まるわけではありません。
ただし条件がひとつあります。請求書の「その他就業先の有無」欄に記入しないと、複数事業労働者とみなされません。厚生労働省のパンフレットにそう書かれています。書き忘れるだけで、合算されない。ここが最大の落とし穴です。
この記事でわかること
- 2020年9月1日以降のケガや病気は、全就業先の賃金を合算して給付基礎日額が決まること
- 請求書の「その他就業先の有無」欄が未記入だと、複数事業労働者とみなされないこと
- 休業補償を請求すると別紙の証明依頼が発生し、勤務先に副業が伝わること
- 1社だけでは認定されない負荷を合算評価する「複数業務要因災害」が新設されたこと
- 本業から副業先へ直接移動する途中の事故は、通勤災害の対象になりうること
- 業務委託の副業は労災の外側で、2024年11月からフリーランスの特別加入が始まったこと
- 2026年7月公布の改正で、2027年4月1日から遺族補償年金の額と時効が変わること
労災は、副業をめぐる制度のなかで「知らないと確実に損をする」タイプの制度です。税金や社会保険と違って、こちらから申告しなければ自動的に処理される仕組みがありません。書類の1つの欄で、受け取れる金額が変わります。
この記事の調べ方(編集方針)
- 本記事は、副業ジャンルの記事を80本以上制作している当サイト編集部が作成しました。事実部分の出典は厚生労働省・都道府県労働局の公式ページおよびパンフレットに限定し、URLと確認日を本文中に明記しています。調査日は2026年9月8日です。
- 本記事は社会保険労務士の監修を受けていません。そのぶん、解釈が分かれる論点では断定を避け、公式資料の原文表現をそのまま引用する方針を取っています。個別の認定は労働基準監督署の調査で決まるため、最終判断は所轄の監督署に確認してください。
- 金額と制度は2026年9月8日時点のものです。労災の給付基礎日額は毎年自動的にスライド変更されるため、年をまたいで読む場合は最新の公表値を確認してください。なお「複数事業労働者」の制度は2020年9月1日施行で、それ以前に発生した傷病には適用されません。
- 体験談は載せていません。公式資料に記載が見当たらなかった論点は「確認できませんでした」と明記し、推測で埋めることはしていません。当サイトの解釈にすぎない部分は、その旨を都度明示しています。
本記事の調査で埋まらなかった論点
今回の調査で当たったのは、厚生労働省の労災補償ページ、複数事業労働者への労災保険給付パンフレット(全21ページ)、フリーランス特別加入リーフレット、確かめよう労働条件のQ&A、東京労働局の通勤災害ページ、労災保険に関するQ&Aの6資料です。そのうえで、次の5点は公式資料に記載を見つけられませんでした。
- 事業場間の移動中に被災した場合、移動元と移動先のどちらの事業場の保険関係で処理されるか
- 副業先へ向かう途中でカフェに立ち寄る行為が、逸脱・中断に当たるか
- 特別加入者の給付基礎日額と本業の賃金を合算する具体的な計算方法
- 2027年4月から時効が5年になる「政令で定める疾病」の具体的な範囲
- 待期3日間について、複数事業労働者の賃金合算がどう扱われるか
また調査中に気づいた点として、パンフレットP.13の「別紙の提出が必要な給付」の一覧に療養(補償)等給付だけが入っていません。ここから「治療費の請求だけなら副業先への証明依頼は生じない」と読めますが、パンフレットがそう書いているわけではありません。本文では、この区別を当サイトの整理として扱っています。
退職後の給付については副業と失業保険に、在職中の保険加入要件は副業の社会保険にまとめています。この記事は、労災保険だけに絞ります。
目次
- 結論:副業先で被災しても、給付は2社分の賃金で計算されます
- 「その他就業先の有無」欄が未記入だと、合算されません
- 労災請求で副業は会社にバレるのか
- そもそも「複数事業労働者」とは誰のことか
- 複数業務要因災害|1社では足りない負荷を合算で評価します
- 本業から副業先への移動中の事故はどうなるか
- 労災の請求書はどこに出すのか|1か所で足ります
- 労災が使えるなら健康保険は使えません
- 業務委託の副業には労災が効きません
- 労災を使っても副業先の保険料は上がりません
- いつまで請求できるのか|時効は2年と5年に分かれます
- 2027年4月1日、遺族補償年金と時効が変わります
- 副業タイプ別|労災はどうなるか
- 副業中に被災したときの労災請求の流れ
- 休業1〜3日目は労災から出ません
- 副業の労災で押さえておきたい数字
- よくある質問
- まとめ|書類の1つの欄が、給付額を3倍にします
- 結論:副業先で被災しても、給付は2社分の賃金で計算されます
- 「その他就業先の有無」欄が未記入だと、合算されません
- 労災請求で副業は会社にバレるのか
- そもそも「複数事業労働者」とは誰のことか
- 複数業務要因災害|1社では足りない負荷を合算で評価します
- 本業から副業先への移動中の事故はどうなるか
- 労災の請求書はどこに出すのか|1か所で足ります
- 労災が使えるなら健康保険は使えません
- 業務委託の副業には労災が効きません
- 労災を使っても副業先の保険料は上がりません
- いつまで請求できるのか|時効は2年と5年に分かれます
- 2027年4月1日、遺族補償年金と時効が変わります
- 副業タイプ別|労災はどうなるか
- 副業中に被災したときの労災請求の流れ
- 休業1〜3日目は労災から出ません
- 副業の労災で押さえておきたい数字
- よくある質問
- 副業のアルバイト先でケガをしました。本業の賃金も合算されますか
- 「その他就業先の有無」欄を書き忘れたらどうなりますか
- 業務委託の副業でケガをした場合、労災は使えますか
- フリーランスの特別加入は保険料がいくらかかりますか
- 本業から副業先へ向かう途中で事故に遭いました。通勤災害になりますか
- 本業と副業の残業を足すと過労なのですが、労災になりますか
- 業務災害と複数業務要因災害の両方をもらえますか
- 病院で健康保険証を出してしまいました
- 副業先が労災保険に入っていないようです
- 請求書は本業と副業の両方の監督署に出す必要がありますか
- 副業を辞めた後に体調を崩しました。合算の対象になりますか
- 副業先に労災請求すると、本業に伝わりますか
- 労災を使うと副業先の保険料が上がりますか
- 2027年4月に何が変わりますか
- まとめ|書類の1つの欄が、給付額を3倍にします
結論:副業先で被災しても、給付は2社分の賃金で計算されます
労災保険の休業補償などは「給付基礎日額」をもとに計算されます。厚生労働省のパンフレットは「平均賃金は、原則、算定事由発生日から前3ヶ月間に支払われた賃金(賃金締切日がある場合は、直近の賃金締切日から前3ヶ月間)を基礎に算定されます」としています。おおまかに言えば、被災前3か月の賃金を暦日数で割った1日あたりの賃金額です(出典: 厚生労働省 複数事業労働者への労災保険給付(パンフレット)P.8、2026年9月8日確認)。この給付基礎日額が、2020年9月1日の法改正で変わりました。
改正前は、労働災害が発生した事業場の賃金だけで算定していました。本業で月30万円、副業先で月15万円という人が副業先でケガをした場合、15万円だけを基礎に補償額が決まっていたわけです。
改正後は、すべての就業先の賃金を合算します。厚生労働省のパンフレットには、次の計算例が載っています。
| 項目 | 改正前 | 改正後 |
|---|---|---|
| A社(本業・月給30万円) | 算定に含まれない | 30万円×3か月÷90日=10,000円 |
| B社(副業・月給15万円) | 15万円のみで算定 | 15万円×3か月÷90日=5,000円 |
| 給付基礎日額 | 5,000円 | 15,000円 |
出典: 厚生労働省 複数事業労働者への労災保険給付(パンフレット)P.11(2026年9月8日確認)。直近3か月の暦日数が90日の場合の例。
同じケガでも、給付基礎日額が3倍違います。休業(補償)等給付は給付基礎日額の60%で、休業特別支給金20%と合わせると80%です。出典は厚生労働省 確かめよう労働条件 Q&A(2026年9月8日確認)。1日あたりの受取額は、改正前なら4,000円、改正後なら12,000円。30日休めば24万円の開きになります。
ただし、これは自動的に適用されるものではありません。請求書に副業先のことを書かなければ、監督署は複数就業を把握できません。次の章で詳しく扱います。
「その他就業先の有無」欄が未記入だと、合算されません
この記事でいちばんお伝えしたいのは、この1点です。
厚生労働省のパンフレットは、請求書の記入について次のように書いています。「複数就業している場合は、当該欄に『複数就業先の有無』『複数就業先の事業場数』『労働保険番号(特別加入)』『(特別加入している場合は)特別加入の加入状況』等について、適切に記入してください。なお、未記入の場合には、複数事業労働者とはみなされません。」(出典: 厚生労働省 複数事業労働者への労災保険給付(パンフレット)P.13、2026年9月8日確認)
従来の様式では把握できませんでした
なぜこんな欄ができたのか。パンフレットの説明はシンプルです。「従来の様式では、複数の事業場で働いているかどうか把握することができませんでした。」(同パンフレット P.13)
つまり、労働基準監督署は請求書に書かれたことしか見ません。副業をしているという事実は、本人が申告しない限り伝わらない。ここが、確定申告のように後から突き合わせが入る制度との違いです。
別紙も必要になります
「その他就業先の有無」欄に記入するだけでは足りない給付があります。パンフレットは、別紙の提出が必要な給付を4つ挙げています。
| 給付の種類 | 別紙の提出 |
|---|---|
| 休業(補償)等給付 | 必要 |
| 障害(補償)等給付 | 必要 |
| 遺族(補償)等給付 | 必要 |
| 葬祭料等(葬祭給付) | 必要 |
| 療養(補償)等給付 | 記載なし(「その他就業先の有無」欄の記入は必要) |
出典: 厚生労働省 複数事業労働者への労災保険給付(パンフレット)P.13(2026年9月8日確認)
そして別紙には、副業先の事業主の証明が要ります。パンフレットは「各複数就業先ごとに別紙を記入し、事業場の証明を受けた上で、労災保険給付の請求の際に提出するようにしてください」としています(同パンフレット P.13)。
ここで、副業を会社に伝えていない人は現実的な壁にぶつかります。副業先の証明をもらうということは、副業先に労災請求の事実が伝わるということです。どの請求でどこまで伝わるのかは、章を分けて整理します。
記入は治療前でなくても間に合います
労災の請求は、被災した直後にすべてを終わらせる必要はありません。休業補償の請求は療養期間が確定してから行いますし、療養補償給付は治療を受けながら請求します。
ただし、後から「実は副業もしていました」と申し出るより、最初から書いておくほうが確実です。請求書の記入例は、パンフレットのP.14以降に休業(補償)等給付の様式第8号を例として掲載されています。出典は同パンフレット P.14〜P.17(2026年9月8日確認)。
副業をしているなら、請求書を書く前にパンフレットのP.13を読んでください。1つの欄で給付額が変わります。
労災請求で副業は会社にバレるのか
副業をしている人がいちばん気にする論点です。先に前提を書きます。公式資料に「本業へ通知する」という手続きは書かれていません。ただし「伝わらない」とも断言できません。
断定する代わりに、制度の作り上どこで接点が生じるかを特定します。
| 手続き | 誰に何が伝わるか |
|---|---|
| 請求書の「その他就業先の有無」欄 | 労働基準監督署に、副業をしている事実と事業場数が伝わる |
| 別紙(休業・障害・遺族・葬祭料の請求) | 別紙の証明を依頼した就業先に、労災請求をした事実が伝わる |
| 療養(補償)等給付のみの請求 | パンフレットの別紙一覧に含まれていない |
| 監督署の調査 | 「必要に応じて請求人及び関係者に書類の提出や聴取を依頼する場合があります」 |
出典: 厚生労働省 複数事業労働者への労災保険給付(パンフレット)P.13・P.18(2026年9月8日確認)
休業補償を請求するなら、証明依頼は避けられません
別紙が必要な4つの給付は、休業・障害・遺族・葬祭料です。この4つは副業先ごとに別紙を作り、その事業場の証明を受けます。
つまり、賃金を合算して休業補償を増やしたいなら、両方の勤務先に証明を頼むことになります。合算のメリットを取ると、副業の存在は勤務先に伝わる。ここはトレードオフです。
治療費だけなら別紙は要りません
一方、療養(補償)等給付はパンフレットの別紙一覧に入っていません。治療費の給付は給付基礎日額を使わないため、他社の賃金額を証明する必要がないからだと考えられます。
したがって、治療費の請求だけで終わる軽微なケガであれば、他の就業先に証明を求める場面は生じないと読めます。ただしこの読み方は当サイトの整理であり、公式資料が明言しているわけではありません。実際の運用は所轄の労働基準監督署に確認してください。
そもそも会社への申告を先に済ませるのが確実です
労災は、被災してから対応を考える性質の制度ではありません。ケガや過重労働は予告なしに起きます。
副業を勤務先に届け出ていない状態だと、休業補償を諦めるか、副業を知られるかの二択になります。判断を迫られる前に、就業規則の副業規定を確認しておくことをおすすめします。
休業補償を取りにいくなら、両社への証明依頼は前提です。判断は被災前に済ませておいてください。
そもそも「複数事業労働者」とは誰のことか
制度の対象になる人の定義を押さえます。厚生労働省のパンフレットは、こう定義しています。
「被災した(業務や通勤が原因でけがや病気などになったり死亡した)時点で、事業主が同一でない複数の事業場と労働契約関係にある労働者の方」
ポイントは「労働契約関係」です
定義に出てくるのは「労働契約関係」という言葉です。雇われている、という意味です。
そのため、本業が会社員で副業が業務委託という組み合わせでは、この定義に直接は当てはまりません。ライター、デザイナー、配達などが典型です。副業側が労働契約ではないためです。ただしパンフレットは、次の人も複数事業労働者になるとしています。
| 働き方の組み合わせ | 複数事業労働者か |
|---|---|
| A社で雇用+B社で雇用 | 該当する |
| 1つの会社と労働契約+他の就業について特別加入 | 該当する |
| 複数の就業について特別加入 | 該当する |
| A社で雇用のみ(副業なし) | 該当しない(改正前と同じ扱い) |
出典: 厚生労働省 複数事業労働者への労災保険給付(パンフレット)P.3(2026年9月8日確認)
つまり、業務委託の副業でも「特別加入」していれば合算の対象になります。逆に、特別加入していない業務委託の副業は、そもそも労災保険の外側にあります。特別加入については後の章で扱います。なお、業務委託で副業を続けるなら開業届の要否も併せて確認してください。判断基準は副業の開業届の出し方にまとめています。
被災時に副業を辞めていても対象になりうる
もうひとつ、見落とされやすい規定があります。パンフレットは「被災した時点で複数の会社について労働契約関係にない場合であっても、その原因や要因となる事由が発生した時点で、複数の会社と労働契約関係であった場合には『複数事業労働者に類する者』として、改正制度の対象となりえます」としています。出典は同パンフレット P.3(2026年9月8日確認)。
パンフレットには具体例が載っています。算定事由発生日は11月15日で、その時点ではA社でしか働いていない。ただし傷病の原因となる事由が生じた時期(5月1日〜10月31日)にはA社とB社で複数就業していた。この場合は複数事業労働者になる、と示されています。出典は同パンフレット P.7(2026年9月8日確認)。
これが効くのは、過重労働による脳・心臓疾患や精神障害のように、原因の発生と発症にズレがあるケースです。副業を辞めた後に発症した場合でも、諦めずに申告してください。
複数業務要因災害|1社では足りない負荷を合算で評価します
2020年の改正には、賃金合算のほかにもうひとつ柱があります。労災認定の判断方法の変更です。
改正前は、1つの事業場だけの業務上の負荷(労働時間やストレス等)を評価して労災認定を判断していました。本業で月40時間、副業で月40時間の残業をしていたとします。それぞれ単独では基準に届きません。結果としてどちらでも認定されない、という事態が起きていました。
改正後は、1つの事業場だけでは労災認定されない場合に、複数の事業場の負荷を総合的に評価して判断します。これで認定される災害を「複数業務要因災害」と呼びます。
対象は脳・心臓疾患や精神障害です
パンフレットは「なお、対象となる傷病等は、脳・心臓疾患や精神障害などです」としています。出典は同パンフレット P.5(2026年9月8日確認)。転倒や切り傷のような一回性のケガは、発生した事業場の業務災害として処理されるため、この枠組みには乗りません。
副業で睡眠時間を削っている人にとっては、実質的にここが本丸です。本業の労働時間だけを見れば普通でも、副業分を足すと過重になるという働き方は、いま珍しくありません。
新設された7つの給付
複数業務要因災害を支給事由とする給付として、次の7つが新設されました。
| 内容 | 業務災害 | 複数業務要因災害 | 通勤災害 |
|---|---|---|---|
| 療養するとき | 療養補償給付 | 複数事業労働者療養給付 | 療養給付 |
| 休業して賃金を受けられないとき | 休業補償給付 | 複数事業労働者休業給付 | 休業給付 |
| 障害が残ったとき | 障害補償給付 | 複数事業労働者障害給付 | 障害給付 |
| 死亡したとき | 遺族補償給付 | 複数事業労働者遺族給付 | 遺族給付 |
| 葬祭を行うとき | 葬祭料 | 複数事業労働者葬祭給付 | 葬祭給付 |
| 療養開始後1年6か月経過 | 傷病補償年金 | 複数事業労働者傷病年金 | 傷病年金 |
| 現に介護を受けているとき | 介護補償給付 | 複数事業労働者介護給付 | 介護給付 |
出典: 厚生労働省 複数事業労働者への労災保険給付(パンフレット)P.19(2026年9月8日確認)
業務災害が優先されます
同時請求はできますが、両方もらえるわけではありません。パンフレットは「『業務災害』に係る保険給付と『複数業務要因災害』に係る保険給付は同時に請求することができます。その場合であっても、支給される保険給付はいずれかのみであり、『業務災害』として労災認定される場合は、業務災害が優先されます」としています(同パンフレット P.13)。
請求する側から見ると、様式は共通です。業務災害用の様式が「業務災害用・複数業務要因災害用」に改められているため、1枚出せば両方の判断がなされます。出典は同パンフレット P.12(2026年9月8日確認)。
ただし例外もあります。パンフレットは「『その他就業先の有無』に記載がない場合や、疾病にかかる申請の場合であって、脳・心臓疾患、精神障害及びその他2以上の事業の業務を要因とすることが明らかな疾病以外にかかる請求の場合は、『業務災害』のみの申請と取り扱います」としています(同パンフレット P.13)。ここでも「その他就業先の有無」欄が効いてきます。
本業から副業先への移動中の事故はどうなるか
副業をしている人にとって、実は発生確率が高いのがこの場面です。本業を終えて、そのまま副業先へ向かう途中の事故。
労災保険法上の「通勤」は3種類あります。東京労働局のページは次のように整理しています。
| 類型 | 内容 |
|---|---|
| (1) | 住居と就業の場所との間の往復 |
| (2) | 就業の場所から他の就業の場所への移動 |
| (3) | 住居と就業の場所との間の往復に先行し、又は後続する住居間の移動(単身赴任者) |
出典: 東京労働局 通勤災害について(2026年9月8日確認)
(2)について東京労働局は「複数の異なる事業場で働く労働者については、一つ目の就業の場所での勤務が終了した後に、もう二つ目の就業の場所へ向かう場合の移動をいいます」と説明しています。
本業から副業先への直行は、通勤災害の対象になりうるということです。
いったん帰宅すると扱いが変わります
条文が想定しているのは「就業の場所から他の就業の場所への移動」です。本業を終えて帰宅し、休憩してから副業先へ向かう場合は、(1)の「住居と就業の場所との間の往復」に当たります。どちらも通勤には違いありませんが、経路の認定の仕方は変わります。
寄り道すると通勤ではなくなります
東京労働局は「逸脱とは、通勤の途中で就業や通勤と関係ない目的で合理的な経路をそれることをいい、中断とは、通勤の経路上で通勤と関係ない行為を行うことをいいます」としたうえで、例外となる行為を5つ挙げています。
| 例外となる行為 |
|---|
| (1) 日用品の購入その他これに準ずる行為 |
| (2) 職業訓練、学校教育法第1条に規定する学校において行われる教育その他これらに準ずる教育訓練であって職業能力の開発向上に資するものを受ける行為 |
| (3) 選挙権の行使その他これに準ずる行為 |
| (4) 病院又は診療所において診察又は治療を受けることその他これに準ずる行為 |
| (5) 要介護状態にある配偶者、子、父母、孫、祖父母および兄弟姉妹並びに配偶者の父母の介護(継続的にまたは反復して行われるものに限る) |
出典: 東京労働局 通勤災害について(2026年9月8日確認)
一方で、経路近くの公衆便所を使う、経路上の店で飲み物を買うといった「ささいな行為」は逸脱・中断にならないとされています。副業先へ向かう途中でカフェに入って作業をする、といった行為がどちらに当たるかは公式資料に記載がなく、確認できませんでした。
どちらの会社の労災になるのかは確認できませんでした
事業場間移動中の災害について、移動元と移動先のどちらの事業場の保険関係で処理されるのか。この点を明記した公式ページは、今回の調査では見つけられませんでした。
給付基礎日額は合算されるため受け取る額に大きな差は生じない見込みですが、これは当サイトの理解です。請求書をどちらの事業場の証明で出すかは、所轄の労働基準監督署に確認してください。
労災の請求書はどこに出すのか|1か所で足ります
複数の会社で働いていると、労働基準監督署も複数関係することになります。全部に出すのかと思われがちですが、そうではありません。
パンフレットは「複数の事業場で就業している場合は、各事業場を管轄する労働基準監督署のいずれかに提出してください。したがって、複数の事業場で就業している場合でも、各事業場を管轄する労働基準監督署にそれぞれ提出する必要はありません」としています(出典: 厚生労働省 複数事業労働者への労災保険給付(パンフレット)P.12、2026年9月8日確認)。
ただし、原則は災害が発生した事業場を管轄する監督署です。複数業務要因災害の場合は、パンフレットの手続きフローに「主たる負荷を受けたと感じる事業場を管轄する労働基準監督署へ提出ください」と書かれています(同パンフレット P.18)。
監督署は何を調べるのか
パンフレットは、監督署の調査項目を列挙しています。
| 調査される内容 |
|---|
| 複数事業労働者等に該当するか否か |
| 業務が原因の負傷・疾病か否か |
| 1つの事業場の業務上の負荷が原因の負傷・疾病か否か |
| 複数の事業場の業務上の負荷を総合的に評価した場合に労災認定できるか否か |
| 休業を要するか否か |
| 保険給付額の算定 |
出典: 厚生労働省 複数事業労働者への労災保険給付(パンフレット)P.18(2026年9月8日確認)
「必要に応じて請求人及び関係者に書類の提出や聴取を依頼する場合があります」ともあります。労災請求は、出して終わりではなく調査が入る制度です。
労災が使えるなら健康保険は使えません
病院に行くとき、多くの人が反射的に健康保険証(マイナ保険証)を出します。労災では、これが問題になります。
厚生労働省の「確かめよう労働条件」は、次のように書いています。「労災保険の対象となる場合には、健康保険は使えませんので、病院で受診する時に会社に出勤する途中のけがであることをはっきり申し出てください。」
出典: 厚生労働省 確かめよう労働条件 アルバイト先に向かう途中の転倒。労災は適用されますか?(2026年9月8日確認)
労災指定医療機関なら窓口負担ゼロ
労災の療養(補償)等給付は、労災病院や労災保険指定医療機関で受診すれば無料です。厚生労働省は「療養した医療機関が労災保険指定医療機関でない場合には、一旦療養費を立て替えて支払い、その後労働基準監督署に請求書を提出すると、その費用が支払われます」としています。出典は厚生労働省 確かめよう労働条件 Q&A(2026年9月8日確認)。
健康保険で処理してしまうと、後から労災に切り替える手続きが必要になり、健康保険組合に返金してから労災請求をやり直すことになります。副業先でのケガは特に、その場の判断で健康保険を出してしまいがちです。
会社が「労災じゃない」と言っても請求できます
「確かめよう労働条件」は、こうも書いています。「もし、労災請求について会社から協力が得られない場合は、労働基準監督署に相談してください。」
さらに「なお、会社が労災保険への加入手続きを怠っている場合にも、業務災害又は通勤災害で被災した労働者に対する保険給付は行われます」とあります。
出典: 厚生労働省 確かめよう労働条件 アルバイト先に向かう途中の転倒。労災は適用されますか?(2026年9月8日確認)
労災に入っていない会社での副業でも、給付そのものは受けられます。副業のアルバイト先が小規模で労働保険に未加入だった、というケースでも諦める必要はありません。なお厚生労働省は、未手続事業主に対しては遡って保険料を徴収するほか、給付額の100%または40%を徴収するとしています。出典は厚生労働省 労災保険未手続事業主に対する費用徴収制度の強化(2026年9月8日確認)。
業務委託の副業には労災が効きません
ここまでは「雇われている副業」の話です。ライター、デザイナー、動画編集、フードデリバリーなど、業務委託の副業は事情が違います。
労災保険は「労働者」を対象とする制度です。厚生労働省は「労災保険における労働者とは、『職業の種類を問わず、事業に使用される者で、賃金を支払われる者』をいい、労働者であればアルバイトやパートタイマー等の雇用形態は関係ありません」としています。
出典: 厚生労働省 労災補償(2026年9月8日確認)
裏を返すと、業務委託契約で仕事を受けている人は「事業に使用される者」ではないため、原則として労災保険の外にいます。
2024年11月からフリーランスも特別加入できます
そこを埋めるのが特別加入制度です。厚生労働省は「令和6年11月から、以下の方について新たに特別加入制度の対象となりました。・特定受託事業に従事する方(特定フリーランス事業)」としています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 開始時期 | 2024年11月 |
| 対象 | 企業などから業務委託を受けて行う事業(BtoB)に従事する特定受託事業者 |
| BtoCの扱い | 同種の事業を消費者から委託を受けて行う場合のケガ等も補償対象 |
| 「特定受託事業者」の定義 | 業務委託の相手方である事業者であって、従業員を使用しないもの |
| 手続き | フリーランスの特別加入団体を通じて、所轄の労働基準監督署長を経由し都道府県労働局長へ提出 |
出典: 厚生労働省 フリーランスの皆さまも、特別加入により労災保険の補償を受けられます!(リーフレット)(2026年9月8日確認)
保険料は自分で選んだ日額で決まります
特別加入の保険料は、給付基礎日額を自分で選ぶ方式です。リーフレットは次のように説明しています。
「年間保険料は、休業(補償)等給付などの給付額算定の基礎となる給付基礎日額(1日当たりの収入を基準として加入時に3,500円から25,000円までの16段階から選択し、都道府県労働局長が承認した額)の365日分の0.3%です。」
公式の計算例は次のとおりです。
| 選んだ給付基礎日額 | 年間保険料 | 計算式 |
|---|---|---|
| 10,000円 | 10,950円 | 10,000×365×3/1000 |
出典: 厚生労働省 フリーランス特別加入リーフレット(2026年9月8日確認)
同じ式で計算すると、下限の3,500円なら年3,832円、上限の25,000円なら年27,375円です。この2つは当サイトが公式の計算式に当てはめたもので、リーフレットに記載された数値ではありません。
給付内容は労働者とほぼ同じです
特別加入者が受けられる給付の主なものを整理します。
| 給付 | 内容 |
|---|---|
| 療養(補償)等給付 | 労災病院・労災指定病院等で必要な治療等が無料。それ以外なら費用を支給 |
| 休業(補償)等給付 | 休業4日目以降、1日につき給付基礎日額の60%(特別支給金20%と合わせて80%) |
| 障害(補償)等年金 | 1年あたり給付基礎日額の313日分(第1級)〜131日分(第7級) |
| 障害(補償)等一時金 | 給付基礎日額503日分(第8級)〜56日分(第14級) |
| 遺族(補償)等年金 | 遺族の人数に応じ、1年あたり245日分(4人以上)〜153日分(1人) |
| 葬祭料等 | 31万5千円+給付基礎日額30日分、または給付基礎日額60日分の高いほう |
出典: 厚生労働省 フリーランス特別加入リーフレット(2026年9月8日確認)
なお、遺族(補償)等年金の「1人153日分」は、後述の2026年改正で2027年4月1日から175日分に変わります。
ただし「労働者とまったく同じ」ではありません。特別加入は、申請した事業の内容にもとづいて労働局長が承認する仕組みです。どの範囲の行為が補償対象になるかはリーフレットに詳しい記載がなく、確認できませんでした。加入前に、対象となる業務の範囲を特別加入団体または労働局に確認してください。
特別加入と本業の賃金は合算対象です
前の章で触れたとおり、パンフレットは「1つの会社と労働契約関係にあり、他の就業について特別加入している方」を複数事業労働者に含めています。
つまり、会社員として働きながらフリーランスの特別加入をしている人は合算の対象になる建て付けです。本業の賃金と、特別加入で選んだ給付基礎日額を足すことになります。ただし具体的な合算方法の計算例は、リーフレットにもパンフレットにも見当たりませんでした。金額の見込みは所轄の監督署に確認してください。なお、特別加入と厚生年金・健康保険は別の制度です。加入要件は副業の社会保険で扱っています。
業務委託の副業をしているなら、まず「自分は労災の外にいる」ことを確認してください。年1万円程度で内側に入れます。
2020年8月31日以前の傷病には適用されません
改正には経過措置があります。パンフレットは明確です。
「施行に当たっては経過措置が設けられており、2020年9月1日(改正労働者災害補償保険法の施行日)以後に発生した傷病等についてのみ、今般の制度改正の対象となります。そのため、2020年8月31日以前に発生した傷病等については、従来どおり改正前の制度により労災保険給付が行われます。」(出典: 厚生労働省 複数事業労働者への労災保険給付(パンフレット)P.6、2026年9月8日確認)
いま副業をしている人にとっては過去の話ですが、長期療養中の人や、時効の範囲内で過去の傷病を請求しようとしている人には関係します。
労災を使っても副業先の保険料は上がりません
副業先に労災請求を伝えづらい理由のひとつが、会社への影響です。労災を使うと会社の保険料が上がるのではないか、と。
労災保険にはメリット制という仕組みがあります。厚生労働省のパンフレットは「労災保険には、各事業場の業務災害の多寡に応じ、労災保険率又は保険料を増減させる、メリット制があります」と説明しています(出典: 厚生労働省 複数事業労働者への労災保険給付(パンフレット)P.6、2026年9月8日確認)。
これについてパンフレットは「今般の制度改正については、メリット制には影響せず。業務災害が発生した事業場の賃金に相当する保険給付額のみがメリット制に影響します」としています。出典は同パンフレット P.6(2026年9月8日確認)。
副業先の賃金を合算したことで増えた分は、副業先の保険料に跳ね返らないということです。副業先に説明するときに使える事実です。
いつまで請求できるのか|時効は2年と5年に分かれます
労災の請求権には時効があります。厚生労働省のQ&Aが給付ごとに整理しています。
| 給付 | 時効 |
|---|---|
| 療養(補償)等給付 | 療養の費用を支出した日ごとに請求権が発生し、その翌日から2年 |
| 休業(補償)等給付 | 賃金を受けない日ごとに請求権が発生し、その翌日から2年 |
| 障害(補償)等給付 | 傷病が治癒した日の翌日から5年 |
| 遺族(補償)等年金・一時金 | 被災労働者が亡くなった日の翌日から5年 |
| 葬祭料等(葬祭給付) | 被災労働者が亡くなった日の翌日から2年 |
| 介護(補償)等給付 | 介護を受けた月の翌月の1日から2年 |
| 傷病(補償)等年金 | 監督署長の職権により移行されるため請求時効はない |
| 二次健康診断等給付 | 一次健康診断の受診日から3か月以内 |
出典: 厚生労働省 労災保険に関するQ&A 7-5 労災保険の各種給付の請求はいつまでできますか。(2026年9月8日確認)
副業をしている人が気をつけたいのは、休業(補償)等給付の起算点です。「賃金を受けない日ごとに請求権が発生し、その翌日から2年」とあります。休業した日が1日ずつ独立して時効を数えるということです。
長期療養で請求をまとめて行おうとすると、古い日の分から順に消えていきます。過重労働による疾病は労災だと気づくまでに時間がかかるため、この2年は短く感じられます。
2027年4月1日、遺族補償年金と時効が変わります
労災保険法は2026年にも改正されています。厚生労働省の労災補償ページには「『労働者災害補償保険法』等が改正されました(令和8年)」という項目があり、次の内容が示されています。
| 変更点 | 内容 | 施行 |
|---|---|---|
| 遺族補償年金の支給要件 | 夫にのみ課せられた支給要件(妻の死亡時に55歳以上又は一定の障害の状態にある者)が撤廃 | 2027年4月1日 |
| 遺族1人の場合の年金額 | 給付基礎日額の153日分(55歳以上等の妻は175日分)→ 一律175日分 | 2027年4月1日 |
| 請求権の消滅時効 | 判断が容易でない疾病として政令で定めるものは、療養補償給付等の時効が2年→5年 | 2027年4月1日 |
| 特別加入団体の要件 | 通達等で定めていた要件が法令に規定される。業務改善命令・保険関係消滅が可能に | 2027年4月1日 |
| 農林水産業の暫定任意適用 | 任意適用とされている小規模個人経営の事業の一部も適用事業に | 公布日(2026年7月17日)から5年以内の政令で定める日 |
出典: 厚生労働省 労災補償(2026年9月8日確認)。根拠は労働者災害補償保険法等の一部を改正する法律(令和8年法律第60号)。
副業をしている人に効くのは「時効2年→5年」です
5項目のうち、副業実践者にとって意味が大きいのは時効の延長です。
複数業務要因災害の対象になる脳・心臓疾患や精神障害は、「いつ発症したか」の特定が難しく、労災だと気づくまでに時間がかかります。療養補償給付の時効が2年から5年になれば、気づくのが遅れたケースを救える範囲が広がります。
ただし対象は「その疾病の性質上、災害補償の事由に該当するものかどうか等を容易に判断することができない疾病として政令で定めるもの」に限られます。どの疾病が政令で指定されるかは、この記事の調査時点では確認できませんでした。
特別加入団体への規制も強まります
フリーランスの特別加入は、団体を通じて手続きします。その団体について、業務改善命令や保険関係の消滅といった監督手段が法律に書き込まれます。加入先の団体を選ぶときは、この改正後の運用を見ておいてください。
副業タイプ別|労災はどうなるか
自分がどのタイプかで、やることが変わります。雇用なら請求書の1欄、業務委託なら特別加入の検討です。
| 副業のタイプ | 労災の扱い | やること |
|---|---|---|
| アルバイト・パート(雇用) | 労災の対象。本業と賃金合算 | 請求書に「その他就業先の有無」を記入 |
| 派遣(雇用) | 労災の対象。本業と賃金合算 | 同上 |
| ライター・デザイナー等の業務委託 | 原則対象外 | 特定フリーランス事業として特別加入を検討。源泉徴収の対象にもなる |
| フードデリバリー(業務委託) | 原則対象外 | 特別加入を検討(自転車・原付の貨物運送の枠もある) |
| ブログ・アフィリエイト(自分で運営) | 業務委託ではないため特定受託事業に当たらない可能性 | 加入可否を労働局に確認。開業届の要否も検討 |
| 物販・せどり(自分で仕入れ販売) | 同上 | 同上。売上規模によってはインボイス登録の判断も |
| ポイントサイト・アンケート | 労働でも受託事業でもない | 該当なし |
補足: 表の「原則対象外」「可能性」の判断は、厚生労働省 フリーランス特別加入リーフレットの定義(業務委託の相手方である事業者であって、従業員を使用しないもの)にもとづく当サイトの整理です。個別の加入可否は都道府県労働局にご確認ください。
自分でメディアを運営して広告収入を得ている場合、「企業から業務委託を受けている」という構造になりません。そのため特定受託事業に当たるかどうかが微妙です。ここは公式資料からは判断できませんでした。なお、報酬から先に税が引かれるかどうかは仕事の種類で決まります。対象になる仕事は副業の源泉徴収で扱いました。
副業中に被災したときの労災請求の流れ
請求は受診から振込まで10段階です。副業がある人だけ増えるのは、4番の「その他就業先の有無」欄と5番の別紙の2つです。
| 段階 | やること |
|---|---|
| 1. 受診 | 労災保険指定医療機関を選び、仕事中・通勤中のケガであることを申し出る。健康保険証は出さない |
| 2. 会社への連絡 | 被災した事業場に報告する。副業先で被災した場合は副業先に |
| 3. 様式の入手 | 厚生労働省のサイトから請求書様式をダウンロードする |
| 4. 「その他就業先の有無」欄 | 複数就業先の有無・事業場数・(特別加入なら)労働保険番号と加入状況を記入 |
| 5. 別紙の作成 | 休業・障害・遺族・葬祭料の請求なら、副業先ごとに別紙を作成し事業主の証明を受ける |
| 6. 証明 | 本人・医師・事業主の証明を受ける(複数就業先の事業場も含む) |
| 7. 提出 | 各事業場を管轄するいずれかの労働基準監督署へ提出 |
| 8. 調査 | 監督署が該当性・因果関係・給付額を調査。書類提出や聴取を求められることがある |
| 9. 決定通知 | 支給・不支給の決定が通知される |
| 10. 振込 | 指定口座へ保険給付が支払われる |
出典: 厚生労働省 複数事業労働者への労災保険給付(パンフレット)P.18、厚生労働省 確かめよう労働条件 Q&A(2026年9月8日確認)
なお、請求書等の押印は不要になっています。厚生労働省は「請求書等の書類について、請求人の記名欄や事業主等の証明欄に氏名や住所の記載があれば押印が無いものであっても受付を行います」としています。出典は厚生労働省 労災補償(2026年9月8日確認)。
休業1〜3日目は労災から出ません
休業(補償)等給付が始まるのは休業4日目からです。最初の3日間、いわゆる待期期間は労災保険からは支給されません。
この3日間について、厚生労働省は労働基準法上の休業補償という別の枠組みを示しています。労災補償のページには「労働基準法に基づいて行うべき休業補償の額は賃金水準の変動に伴いスライドします」「なお、労災保険から休業補償給付が支払われる場合は同法上の休業補償の義務はなくなります」と書かれています。
出典: 厚生労働省 労災補償(2026年9月8日確認)
裏を返すと、労災保険から休業補償給付が出ない待期3日間は、労働基準法上の休業補償の義務が残っている期間ということになります。ただしこの読み方は当サイトの整理です。
もうひとつ注意点があります。労働基準法の災害補償は、業務上の負傷・疾病を対象とする規定です。通勤災害には及ばないと解されます。この点も当サイトの理解であり、公式資料が明言しているわけではありません。また、待期3日分について複数事業労働者の賃金合算がどう扱われるかは、公式資料で確認できませんでした。被災した事業場と労働基準監督署に確認してください。
副業の労災で押さえておきたい数字
覚えるべきは日付3つと割合3つです。ここだけ見返せば足ります。
| 数字 | 意味 |
|---|---|
| 2020年9月1日 | 複数事業労働者の賃金合算・負荷の総合評価が始まった日。これ以降に発生した傷病が対象 |
| 2024年11月 | 特定フリーランス事業が特別加入の対象になった時期 |
| 2027年4月1日 | 遺族補償年金1人分が175日分に、一部疾病の時効が5年になる日 |
| 4日目 | 休業(補償)等給付が始まる日(休業1〜3日目は労災の給付対象外) |
| 60%+20% | 休業(補償)等給付と休業特別支給金の合計=給付基礎日額の80% |
| 3,500円〜25,000円 | 特別加入で選べる給付基礎日額の範囲(16段階) |
| 0.3% | 特別加入の年間保険料率(給付基礎日額の365日分に対して) |
| 31万5千円 | 葬祭料等の計算に使う定額部分 |
出典: 厚生労働省 複数事業労働者への労災保険給付(パンフレット)、厚生労働省 フリーランス特別加入リーフレット、厚生労働省 労災補償(いずれも2026年9月8日確認)
よくある質問
副業と労災について、判断に迷いやすい点をまとめました。
副業のアルバイト先でケガをしました。本業の賃金も合算されますか
されます。対象は2020年9月1日以降に発生したケガや病気です。事業主が同一でない複数の事業場と労働契約関係にある場合、すべての就業先の賃金を合算した額をもとに給付基礎日額が決まります。ただし請求書の「その他就業先の有無」欄に記入しないと複数事業労働者とみなされないため、必ず記入してください。
「その他就業先の有無」欄を書き忘れたらどうなりますか
厚生労働省のパンフレットは「未記入の場合には、複数事業労働者とはみなされません」と明記しています。合算されず、被災した事業場の賃金だけで給付額が計算されることになります。書き忘れに気づいたら、提出先の労働基準監督署に速やかに申し出てください。
業務委託の副業でケガをした場合、労災は使えますか
原則として使えません。労災保険は「事業に使用される者で、賃金を支払われる者」を対象とする制度で、業務委託はこれに当たらないためです。ただし2024年11月から、企業等から業務委託を受けているフリーランス(特定受託事業者)は特別加入の対象になりました。加入していれば補償を受けられます。
フリーランスの特別加入は保険料がいくらかかりますか
年間保険料は「給付基礎日額×365×0.3%」です。厚生労働省の例では、給付基礎日額10,000円を選んだ場合で年10,950円です。給付基礎日額は3,500円から25,000円までの16段階から選び、都道府県労働局長が承認します。
本業から副業先へ向かう途中で事故に遭いました。通勤災害になりますか
なりうると考えられます。労災保険法上の「通勤」には「就業の場所から他の就業の場所への移動」が含まれており、東京労働局は「一つ目の就業の場所での勤務が終了した後に、もう二つ目の就業の場所へ向かう場合の移動」と説明しています。ただし合理的な経路・方法であることが前提で、逸脱や中断があるとその後は通勤になりません。
本業と副業の残業を足すと過労なのですが、労災になりますか
複数業務要因災害として判断される可能性があります。2020年の改正でできた仕組みです。1つの事業場だけでは労災認定されない場合に、複数の事業場の業務上の負荷を総合的に評価して判断します。対象となる傷病は脳・心臓疾患や精神障害などです。判断は労働基準監督署の調査によります。
業務災害と複数業務要因災害の両方をもらえますか
もらえません。同時に請求することはできますが、支給される保険給付はいずれか一方のみで、業務災害として認定される場合は業務災害が優先されます。請求書の様式は共通なので、1枚提出すれば両方について判断されます。
病院で健康保険証を出してしまいました
労災の対象となる場合、健康保険は使えません。厚生労働省は「病院で受診する時に会社に出勤する途中のけがであることをはっきり申し出てください」としています。すでに健康保険で処理してしまった場合は、切り替えの手続きが必要になるため、受診した医療機関と労働基準監督署に相談してください。
副業先が労災保険に入っていないようです
給付は受けられます。厚生労働省は「会社が労災保険への加入手続きを怠っている場合にも、業務災害又は通勤災害で被災した労働者に対する保険給付は行われます」としています。会社の未加入は会社の問題であり、被災した労働者の給付を止める理由にはなりません。会社の協力が得られない場合は労働基準監督署に相談してください。
請求書は本業と副業の両方の監督署に出す必要がありますか
ありません。各事業場を管轄する労働基準監督署のいずれか1つに提出すれば足ります。原則は災害が発生した事業場を管轄する監督署、複数業務要因災害の場合は主たる負荷を受けたと感じる事業場を管轄する監督署です。
副業を辞めた後に体調を崩しました。合算の対象になりますか
なりうると考えられます。厚生労働省のパンフレットは、被災時点で複数の会社と労働契約関係になくても、傷病の原因または要因となる事由が生じた時点で複数就業していた場合は「複数事業労働者に類する者」として対象になりえるとしています。まずは監督署に相談してください。
副業先に労災請求すると、本業に伝わりますか
公式資料に「本業へ通知する」という手続きは書かれていません。ただし休業・障害・遺族・葬祭料の請求では、副業先ごとに別紙を作成して事業主の証明を受ける必要があるため、証明を依頼した勤務先には請求の事実が伝わります。賃金を合算して休業補償を受けるなら、両方の勤務先への証明依頼は避けられません。一方、療養(補償)等給付は別紙の一覧に含まれていないため、治療費だけの請求なら他社への証明依頼は生じないと読めますが、これは当サイトの整理です。
労災を使うと副業先の保険料が上がりますか
複数事業労働者の制度改正による部分は上がりません。厚生労働省のパンフレットは「今般の制度改正については、メリット制には影響せず。業務災害が発生した事業場の賃金に相当する保険給付額のみがメリット制に影響します」としています(厚生労働省 複数事業労働者への労災保険給付(パンフレット)P.6、2026年9月8日確認)。合算によって増えた分は、メリット制に反映されないということです。
2027年4月に何が変わりますか
労働者災害補償保険法等の一部を改正する法律(令和8年法律第60号)による改正です。遺族補償年金等について、夫にのみ課せられていた年齢要件が撤廃されます。遺族が1人の場合の年金額も一律175日分になります。さらに、性質上判断が容易でない疾病として政令で定めるものは、療養補償給付等の請求権の消滅時効が2年から5年になります。
まとめ|書類の1つの欄が、給付額を3倍にします
副業と労災の関係は、2020年9月1日を境に大きく変わりました。副業先の低い賃金だけで補償額が決まる時代は終わっています。
本業30万円・副業15万円のケースで、給付基礎日額は5,000円から15,000円になります。厚生労働省が公式に示している計算例です。
ただしこれは、請求書の「その他就業先の有無」欄に記入した人だけが受け取れる金額です。未記入なら複数事業労働者とみなされない。書類の1つの欄が、給付額を3倍にする。この構造を知っているかどうかだけの話です。
もうひとつ、副業をしている人が押さえるべきなのが複数業務要因災害です。本業だけでは基準に届かない負荷でも、副業分を合わせれば認定される可能性がある。長時間の副業で消耗している自覚があるなら、この枠組みがあることを覚えておいてください。
そして業務委託の副業をしている人。あなたはいま、労災保険の外側にいます。2024年11月から特定フリーランス事業として特別加入できるようになりました。給付基礎日額10,000円を選んで年10,950円。1日あたり30円です。
今日できることはひとつです。自分の副業が「雇用」なのか「業務委託」なのかを、契約書で確認すること。ここが分岐点で、その先の対応がすべて変わります。
副業をめぐる制度は、労災だけでは完結しません。事業として届け出るなら副業の開業届の出し方へ。在職中の保険加入要件は副業の社会保険に、報酬から先に引かれる税は副業の源泉徴収にまとめています。
年末の精算は副業の年末調整、消費税の登録は副業のインボイス、退職後の給付は副業と失業保険で扱いました。
いま契約書を開いて、「雇用契約」か「業務委託契約」かを確認してください。業務委託だったら、特別加入の資料に目を通す番です。

